石門星の女性と車騎星の男性の恋愛相性

星の性質と恋愛 恋愛・婚活

石門星の女性と車騎星の男性の恋愛相性|誰にでも優しい先輩を、好きになった。

人とのつながりを大切にし、周囲の空気を整えようとする石門星。

考えるよりも先に動き、自分の気持ちを真っ直ぐに伝えようとする車騎星。

同じ職場で働く二人が惹かれ合ったとき、優しさと真っ直ぐさは、互いを近づける力になる。

しかし、ときにはその違いが、二人の間に越えられないような距離感を作ってしまう。

これは、誰にでも優しい先輩と、その優しさを自分だけに向けてほしいと願った後輩の物語。

※本作は、算命学における十大主星の性質をもとに人物を描いたフィクションです。

CHARACTERS

登場人物

二人の姿は、あなたの想像の中に。

石門星の女性

亜希子

石門星
勤務
会社員4年目・営業企画部
関係
恭平の2年先輩。同じ部署で働く同僚
性格
周囲への気配りを忘れず、困っている人を放っておけない。 人と人の間に立ち、関係を整えることを得意としている。
恋愛
一人を特別に思っていても、自分の気持ちを表に出すのが苦手。 周囲との関係を考えすぎて、答えを曖昧にしてしまう。

「誰かを選ぶことで、ほかの誰かとの関係が壊れるのが怖い」

車騎星の男性

恭平

車騎星
勤務
会社員2年目・営業企画部
関係
亜希子の2年後輩。同じプロジェクトを担当する同僚
性格
決断と行動が早く、曖昧な言葉や遠回しな態度を好まない。 問題が起きたときには、誰よりも先に動こうとする。
恋愛
好きな相手には真っ直ぐに向き合う。 相手からも、自分だけを特別に見てほしいと願っている。

「俺には、誰にでも優しい先輩との違いが分からない」

第1章.誰にでも優しい人

亜希子が自分のデスクへ戻ると、机の上に小さな紙袋が置かれていた。

中にはコンビニのチョコレートと、二つ折りにされた付箋が入っている。

「昨日はありがとうございました。助かりました」

丸みのある文字の下に、経理部の佐々木という名前が書かれていた。

前日の夕方、佐々木は会議資料の数字が合わないと困っていた。亜希子が一緒に確認したところ、参照していたデータが一か月前のものだったことが分かった。

手伝ったといっても、三十分ほどパソコンの画面をのぞき込んでいただけ。

お礼をされるほどのことではない。

亜希子はチョコレートの袋を手にしたまま、経理部の席へ向かった。

「佐々木さん、これ、気を遣わなくてよかったのに」

「でも、亜希子さんがいなかったら、昨日帰れなかったです」

「私もたまたま残ってただけだから」

「そうやっていつも助けてくれるじゃないですか」

佐々木は笑いながら、受け取ってくださいと言った。

亜希子はそれ以上断れず、紙袋を持って自分の席へ戻った。

営業企画部に配属されて四年目。

後輩ができ、少しずつ人に仕事を教える立場になった。それでも亜希子自身は、自分が先輩らしくなったという実感を持てずにいる。

困っている人がいれば声をかける。

会議で意見がぶつかれば、それぞれの話を聞く。

誰かが一人で昼食を食べていれば、よかったら一緒にどう、と誘う。

亜希子にとっては、どれも特別なことではなかった。

「また何かもらったんですか」

背後から声をかけられた。

振り返ると、恭平が立っていた。

濃紺のシャツの袖を肘までまくり、片手にクリアファイルを抱えている。

入社二年目の恭平は、亜希子より二年後輩だった。

背が高く、姿勢がいい。顔立ちは穏やかな方だが、黙っていると少し近寄りがたく見える。

もっとも、実際には黙っていることの少ない男だった。

「佐々木さんから。昨日、資料の確認を手伝ったから」

「先輩、本当に誰の仕事でも手伝いますよね」

「困ってたら放っておけないでしょ」

「それで自分の仕事が遅れてたら意味ないと思いますけど」

「昨日の分はもう終わってる」

「ならいいですけど」

恭平はそう言いながら、亜希子の机の端にクリアファイルを置いた。

「先週頼まれてた顧客アンケートの集計です」

「もう終わったの?」

「はい」

「締め切り、明後日だったよね」

「早い方がいいと思ったので」

亜希子が中身を確認すると、数字はきれいに整理されていた。ただし、報告書の文章は必要最低限で、結論だけが並んでいる。

「仕事は早いけど、説明がちょっと少ないかな」

「数字を見たら分かりませんか」

「恭平君には分かっても、この資料を見る人が全員同じように分かるとは限らないから」

「結論だけ書いた方が読みやすいと思いますけど」

「その結論になった理由も必要なの」

恭平は納得していない顔をした。

こういうところが、いかにも彼らしい。

遠回しな表現を嫌い、必要なことを必要なだけ伝えようとする。仕事は速く、行動力もあるが、相手の立場を想像する前に進んでしまうことがあった。

「今日、時間ある?」

「あります」

「一緒に直そうか」

「先輩、自分の仕事は?」

「大丈夫。今度は遅れてないから」

亜希子が笑うと、恭平は少しだけ眉を下げた。

「先輩、俺のこと、仕事できないと思ってます?」

「思ってないよ」

「じゃあ、子どもに教えるみたいな言い方やめてください」

「そんな言い方してる?」

「してます」

「ごめん。気をつける」

亜希子が素直に謝ると、恭平は一瞬だけ言葉に詰まった。

強く言い返されると思っていたのかもしれない。

「でも、文章は一緒に直そう」

「そこは譲らないんですね」

「仕事だからね」

恭平は小さく息を吐いた。

けれど、その口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。

第2章.二人で組む

二人が同じ仕事を担当することになったのは、それから一週間後だった。

会社では、新しい法人向けサービスの立ち上げが進んでいた。複数の部署が関わる大きな案件で、営業企画部から二人の担当者を出すことになった。

上司が選んだのは、亜希子と恭平だった。

「この二人で大丈夫ですか」

打ち合わせのあと、恭平が亜希子に尋ねた。

「どういう意味?」

「俺たち、仕事の進め方が全然違うじゃないですか」

「だから選ばれたんじゃない?」

「それ、本気で言ってます?」

「恭平君は動くのが早い。私は、関係する人たちの意見をまとめるのが得意。役割は分けやすいと思う」

「先輩が話をまとめて、俺が動く」

「そう」

「便利に使われてる気もしますけど」

「頼りにしてるってこと」

その言葉を聞いた恭平は、急に黙った。

「何?」

「いや。先輩でも、そういうこと言うんだなと思って」

「私を何だと思ってるの」

「誰にでも同じように優しい人」

褒められているようにも聞こえたが、恭平の表情は笑っていなかった。

亜希子が返事を考えているうちに、彼はパソコンへ視線を戻した。

プロジェクトが始まると、二人は行動を共にすることが増えた。

午前中は社内会議に出席し、午後から取引先へ向かう。会社へ戻ってから報告書を作り、翌日の準備をする。

恭平の仕事は、やはり速かった。

取引先から修正を頼まれれば、その場で必要な部署へ連絡を入れる。問題が起きれば、原因を突き止めるために現場へ向かう。

ただし、動きが速すぎる。

「先方から返事が来るまで待とう」

亜希子が言っても、恭平は納得しない。

「待ってる間に準備できます」

「向こうの希望が変わるかもしれないよ」

「変わったら、また直せばいいじゃないですか」

「二度手間になるでしょ」

「何もしないよりいいです」

何度も意見がぶつかった。

それでも、不思議と仕事はうまく進んでいた。

恭平が先に動きすぎれば、亜希子が関係者へ説明する。亜希子が周囲の意見を聞きすぎて決断できずにいると、恭平が選択肢を二つに絞った。

一人ではできないことが、二人ならできた。

「先輩って、意外と優柔不断ですよね」

取引先からの帰り道、恭平が言った。

「意外は余計」

「全員が納得する方法なんてないのに、ずっと考えてるから」

「できるだけ納得してもらった方が、あとで協力してもらいやすいでしょ」

「でも、時間には限りがあります」

「分かってる」

「分かってない顔してます」

駅へ続く歩道は、仕事帰りの人で混雑していた。

亜希子が前から来た人をよけようとすると、恭平が腕を伸ばした。

肩に触れる寸前で止まり、人の流れから守るように亜希子の隣へ立つ。

「危ないですよ」

「大丈夫」

「先輩は、人のことばかり見すぎです」

「今のは関係ないでしょ」

「前を見てなかったじゃないですか」

「考え事してただけ」

「俺がいなかったら、ぶつかってましたよ」

「はいはい。ありがとう」

軽く答えたつもりだった。

けれど、恭平は不満そうな顔をした。

「先輩、俺の言うこと、いつも適当に流しますよね」

「流してないよ」

「流してます」

「じゃあ、何て言えばいいの?」

恭平は少し考えたあと、視線を前に戻した。

「別に、何でもないです」

その横顔を見ながら、亜希子は胸の奥に小さな違和感を覚えた。

何でもない、と言う人の顔には見えなかった。

第3章.名前で呼ばれた夜

プロジェクトの開始から一か月が過ぎた頃、二人は連日のように残業していた。

時計の針が午後九時を回ると、部内に残っているのは亜希子と恭平だけになった。

「先輩、まだかかります?」

「あと少し。恭平君は帰っていいよ」

「俺の担当分は終わりました」

「なら帰りなよ」

「待ってます」

「どうして?」

恭平はパソコンの画面から目を離さずに答えた。

「駅まで一緒に帰るって言ったから」

昼休みに、亜希子が何気なく口にした言葉だった。

今日も遅くなりそうだね。帰り、一緒になるかもね。

約束をしたつもりはなかった。

だが、恭平は約束として覚えていたらしい。

「まだ三十分くらいかかるよ」

「分かりました」

「本当に帰っていいから」

「待つって言ってるじゃないですか」

迷いのない声だった。

亜希子はそれ以上言えず、急いで作業を終わらせた。

会社を出ると、昼間から降り続いていた雨は上がっていた。濡れた道路に街灯の光が反射している。

「お腹すきません?」

恭平が聞いた。

「すいた」

「何か食べて帰りませんか」

翌日も仕事がある。時間も遅い。

断る理由はいくつも浮かんだ。

それでも亜希子は、うん、と答えた。

二人が入ったのは、駅の近くにある小さなラーメン店だった。

おしゃれな店ではない。カウンター席が並び、仕事帰りの会社員が黙々と丼に向かっている。

「こういう店、先輩も来るんですね」

「私を何だと思ってるの」

「カフェでサラダを食べてそうです」

「偏見がひどい」

「部署の女性陣と、よくランチに行ってるじゃないですか」

「恭平君、意外と人のこと見てるね」

「先輩のことは見てます」

恭平は何でもないことのように言った。

亜希子は水を飲むふりをして、視線をそらした。

熱いものが喉を通ったわけでもないのに、顔が赤くなるのを感じた。

注文したラーメンが届くと、会話は途切れた。

しばらくして、恭平が口を開いた。

「先輩は、どうして今の会社に入ったんですか」

「急にどうしたの?」

「聞いたことなかったので」

亜希子は箸を止めた。

大学生の頃、これといって明確な目標はなかった。人と関わる仕事がしたいという程度で、今の会社を選んだ。

入社してからも、自分が何をしたいのか、はっきりした答えは見つかっていない。

ただ、人と人の間に立つ仕事は嫌いではなかった。

「いろんな人と仕事ができそうだったからかな」

「やっぱり、人なんですね」

「やっぱりって?」

「先輩はいつも、仕事そのものより、人を見てるから」

「それ、褒めてる?」

「半分くらいは」

「残りの半分は?」

「人のことを優先しすぎる」

「またそれ?」

「自分が何をしたいか、もっと言ってもいいと思います」

恭平の言葉に、亜希子は笑って答えようとした。

けれど、うまく笑えなかった。

自分が何をしたいのか。

そんなことを聞かれると、困る。

誰かが望んでいることを考えるのは得意だった。けれど、自分自身の望みを言葉にすることは苦手だった。

「恭平君は、何をしたいの?」

質問を返すと、彼は迷わず答えた。

「結果を出したいです」

「仕事で?」

「仕事も、それ以外も」

「それ以外って?」

恭平は亜希子を見た。

真っ直ぐな視線だった。

そのまま何かを言われる気がして、亜希子は目をそらせなくなった。

だが、恭平は結局、何も言わなかった。

「先輩」

店を出たあと、恭平が呼び止めた。

「何?」

「仕事のとき以外は、亜希子さんって呼んでもいいですか」

突然の申し出に、亜希子は言葉を失った。

「どうして?」

「先輩って呼んでると、ずっと会社の人みたいだから」

「会社の人でしょ」

「それだけじゃ嫌なんです」

胸の奥が大きく鳴った。

恭平は目をそらさない。

亜希子は、自分だけが動揺していることを悟られたくなかった。

「好きにしたら」

ようやく出た言葉は、ひどく素っ気なかった。

それでも恭平は、うれしそうに笑った。

「じゃあ、亜希子さん」

その呼び方を聞いた瞬間、二人の間にあった先輩と後輩の境界が、少しだけ薄くなった気がした。

第4章.特別になれない

それから恭平は、二人きりのときだけ亜希子を名前で呼ぶようになった。

会社では先輩。

会社を出れば亜希子さん。

たったそれだけのことなのに、亜希子は恭平と話すたび、以前よりも彼を意識するようになった。

残業後に食事をする。

取引先へ向かう電車で隣に座る。

休日に見つけた店の写真を送り合う。

二人の距離感は、少しずつ近づいていた。

けれど、亜希子はその関係に名前をつけられずにいた。

恭平から好意を向けられていることには気づいている。

自分も、彼に惹かれていた。

仕事に真っ直ぐなところ。

不器用なくせに、困っている人を見つけると誰よりも早く動くところ。

自分の考えを誤魔化さず、相手にぶつけるところ。

亜希子にはないものを、恭平は持っていた。

それでも、同じ部署で働く後輩と付き合うことには不安があった。

もし別れたら。

周囲に知られたら。

仕事に影響が出たら。

恭平には、まだ長い会社員人生がある。二年先輩というだけの自分が、彼の将来に余計な影響を与えていいのか。

考え始めると、答えは出なかった。

金曜日の夜、恭平から食事に誘われた。

プロジェクトが一段落したら、二人で行こうと話していた店だった。

亜希子は珍しく、朝から落ち着かなかった。

仕事を終えたあと、二人で会社を出る。誰にも見られないように少し離れて歩くべきだろうか。

そんなことまで考えていた。

ところが夕方、同じ部署の美咲が亜希子の席へ来た。

「今日、少しだけ話せませんか」

美咲は入社一年目だった。

いつも明るい彼女が、その日は目を赤くしていた。

話を聞くと、担当している顧客から強い口調で叱責され、自信を失っているという。

「私、向いてないのかもしれません」

美咲は泣くのをこらえるように言った。

亜希子は放っておけなかった。

「今日はもう仕事を切り上げよう。どこかで話そうか」

言ったあとで、恭平との約束を思い出した。

スマートフォンを見ると、彼からメッセージが届いていた。

〈先に一階で待ってます〉

亜希子は少し迷ったあと、返信を打った。

〈ごめん。美咲ちゃんが落ち込んでるから、今日は一緒に帰ることになった。また別の日でもいい?〉

返事はすぐには来なかった。

亜希子が美咲と会社を出ようとしたとき、エレベーターホールで恭平と会った。

「ごめんね」

亜希子が声をかけると、恭平は美咲を見て状況を察したらしい。

「大丈夫です」

そう答えた声は、いつもより低かった。

「また日を決めよう」

「はい」

「恭平君も、一緒に行く?」

亜希子としては、彼を仲間外れにしたくなかった。

だが、恭平の表情が変わった。

「行きません」

「そう」

「俺がいたら、話しにくいと思うので」

「ごめん」

「謝らなくていいです」

それだけ言うと、恭平は先にエレベーターへ乗った。

扉が閉まる直前まで、彼は亜希子を見なかった。

その夜、美咲の話を聞きながらも、亜希子は何度もスマートフォンを確認した。

恭平からの連絡はなかった。

翌週、彼の態度は明らかに変わっていた。

仕事上の会話はする。

頼んだことも、以前と変わらない速さで終わらせる。

しかし、二人きりでも亜希子を名前で呼ばなくなった。

「恭平君」

残業中、亜希子は彼の席へ近づいた。

「金曜日のこと、怒ってる?」

「怒ってません」

「でも、何か変じゃない?」

「普通です」

「普通じゃないよ」

恭平はキーボードを打つ手を止めた。

「先輩にとっては、普通なんだと思います」

「どういう意味?」

「誰かが困っていたら助ける。それが先輩だから」

「美咲ちゃん、かなり落ち込んでたの」

「分かってます」

「だったら――」

「俺も、分かってほしかったです」

恭平は椅子から立ち上がった。

声を荒らげてはいない。

けれど、その目には、今まで見たことのない感情が浮かんでいた。

「俺は、あの日を楽しみにしてました」

「私も楽しみにしてたよ」

「でも先輩は、簡単に別の日にできた」

「簡単じゃないよ」

「俺にはそう見えました」

亜希子は言葉を失った。

「美咲のことを放っておけなかったのは分かってます。それを責めるつもりはありません」

「じゃあ、何が嫌だったの?」

「先輩にとって俺は、困ってる人がいたら後回しにできる相手なんだと思っただけです」

「そんなことない」

「だったら、何なんですか」

恭平が亜希子を見る。

逃げ道を許さないような、真っ直ぐな視線だった。

「先輩にとって、俺って何なんですか」

亜希子は答えられなかった。

後輩。

同僚。

一緒に仕事をする相手。

大切な人。

好きな人。

いくつもの言葉が浮かんだ。

けれど、最後の一つを口にする勇気が出なかった。

沈黙が続く。

恭平の目から、少しずつ期待が消えていった。

「分かりました」

「待って」

「俺には、誰にでも優しい先輩と、俺を好きな亜希子さんの違いが分からないです」

その言葉を残し、恭平は部屋を出ていった。

第5章.真っ直ぐすぎる人

それから二人の間には、目に見えない壁ができた。

仕事は続く。

プロジェクトも終わっていない。

会議では隣に座り、取引先にも一緒に向かった。

それでも、以前のような会話はなくなった。

亜希子は何度も恭平に話しかけようとした。

しかし、何を言えばいいのか分からなかった。

好きだと伝えれば、関係は変わる。

伝えなければ、今の距離感が続く。

どちらを選んでも、誰かが傷つく可能性があった。

亜希子はこれまで、人間関係に波風を立てないことを大切にしてきた。

一人の意見だけを通さない。

誰かを露骨に特別扱いしない。

できるだけ全員が納得できる場所を探す。

そうすることで、周囲との関係を守ってきた。

だが、恋愛で同じことをすれば、相手には何も伝わらない。

誰にでも同じように優しくしながら、一人だけに自分を選んでほしいと願う。

それは、都合がよすぎるのかもしれない。

数日後、プロジェクトで問題が起きた。

取引先へ納品する資料に、誤った数値が使われていることが分かった。

原因は、別部署から送られてきたデータの更新漏れだった。

翌朝には先方へ説明しなければならない。

担当者たちが集められ、緊急の打ち合わせが始まった。

会議室では、誰が確認を怠ったのかという話ばかりが続いた。

「最終確認は営業企画部ですよね」

「元のデータが違っていたら、こちらでは分からないでしょう」

「でも、以前の数字と比較すれば気づけたはずです」

責任の押しつけ合いになっていた。

亜希子は、それぞれの言い分を聞きながら、解決策を探そうとした。

しかし、時間だけが過ぎていく。

そのとき、恭平が立ち上がった。

「今、誰が悪いかを決めても、明日の説明には間に合いません」

会議室が静かになった。

「俺が元データを確認します。修正版を作るので、先方への説明資料は亜希子先輩にまとめてほしいです」

上司が恭平を見る。

「今日中にできるのか」

「やります」

「一人では無理だろう」

「必要な人には俺から頼みます」

迷いのない答えだった。

亜希子は、その横顔を見つめた。

恭平は真っ直ぐすぎる。

周囲とぶつかり、誤解されることもある。

けれど、誰も決められないとき、彼は最初に一歩を踏み出す。

その姿に、亜希子は何度も救われていた。

「私もやります」

気づけば、声が出ていた。

「説明資料だけじゃなく、関係部署との調整も私が引き受けます。恭平君は数字の修正に集中して」

恭平が亜希子を見る。

二人の目が合った。

そこに以前のような柔らかさはなかった。

それでも、彼は小さくうなずいた。

「お願いします」

その夜、二人は再び同じ部屋で残業した。

恭平が修正した数字を、亜希子が資料へ反映する。関係部署へ確認を取り、説明文を整える。

会話は必要最低限だった。

だが、仕事の呼吸は合っていた。

恭平が何を必要としているのか、亜希子には分かった。

亜希子が誰に連絡を取ろうとしているのか、恭平も理解していた。

深夜十二時前、資料が完成した。

「終わった」

亜希子が椅子の背にもたれると、恭平も手を止めた。

「お疲れさまでした」

「恭平君も」

二人の間に沈黙が落ちた。

パソコンのファンの音だけが聞こえる。

亜希子は、今度こそ逃げてはいけないと思った。

「この前の答えなんだけど」

恭平の肩がわずかに動いた。

「今、言わなくていいです」

「私は言いたい」

「仕事が終わったばかりですよ」

「だから、ここからは仕事の話じゃない」

亜希子は椅子から立ち上がった。

恭平もゆっくりと顔を上げた。

「私はずっと、誰か一人を特別扱いしたら、ほかの人との関係が壊れる気がしてた」

「はい」

「職場で恭平君と付き合ったら、周りにどう見られるかも気になった。もしうまくいかなかったら、仕事に影響が出るかもしれない。恭平君の負担にもなると思った」

「だから、答えられなかったんですか」

「うん」

「俺のために?」

恭平の声には、少しだけ苛立ちが混じっていた。

「それもある」

「俺がどう思うかは、聞かないんですね」

その言葉が胸に刺さった。

また同じことをしている。

相手のためだと言いながら、相手の意思を確かめず、自分だけで答えを出そうとしている。

「ごめん」

亜希子は言った。

「私は、人の気持ちを考えてるつもりで、自分が傷つかない方法を探してただけかもしれない」

恭平は何も答えない。

「誰かを選んだら、選ばなかった人ができる。それが怖かった」

亜希子は一度、息を吸った。

「でも、誰も選ばないままだったら、一番大切な人に何も伝わらない」

声が震えた。

それでも、目をそらさなかった。

「私は、恭平君が好き」

ようやく言えた。

口にしてしまえば、驚くほど短い言葉だった。

けれど、その言葉を出すまでに、ずいぶん長い時間がかかった。

「後輩だから大切なんじゃない。誰にでも同じように接してるわけでもない。恭平君だから、一緒にいたいと思ってる」

恭平は黙ったまま、亜希子を見ていた。

「今さら信じてもらえないかもしれないけど」

「信じます」

恭平はすぐに答えた。

今度は亜希子が驚く番だった。

「そんなに簡単に?」

「先輩が、こういうことを適当に言えない人だって知ってるので」

恭平は立ち上がった。

二人の距離が近づく。

「でも、一つだけ約束してください」

「何?」

「勝手に俺のためを考えて、勝手に離れないでください」

「分かった」

「困ってる人を助けるなとは言いません」

「うん」

「でも、俺との約束を変えるときは、俺が何とも思わないって決めつけないでください」

「分かった」

「あと、二人のときは、先輩って呼ばなくても怒らないでください」

亜希子は少し笑った。

「それは前から怒ってない」

「最近は呼ばせてくれなかったじゃないですか」

「恭平君が呼ばなかっただけでしょ」

「じゃあ」

恭平が亜希子を見る。

「亜希子さん」

久しぶりに名前を呼ばれた。

それだけで、目の奥が熱くなった。

「はい」

「もう一回、食事に誘ってもいいですか」

「今日?」

「今日は遅すぎます」

「じゃあ、いつ?」

「明日」

「明日は土曜日だけど」

「だからです」

恭平は少しだけ笑った。

「今度は、仕事の帰りじゃなくて、最初から二人で会いたいです」

亜希子はうなずいた。

「うん。行こう」

その瞬間、恭平の表情がようやく緩んだ。

第6章.選ぶということ

翌日、二人は駅から少し離れた店で待ち合わせた。

会社の近くではない。

仕事用の服でもない。

亜希子は何度も鏡を見てから家を出た。

約束の十分前に着いたが、恭平はすでに待っていた。

黒いジャケットに白いシャツ。会社で見る姿より、少しだけ大人びて見える。

「早いね」

「亜希子さんも」

「待った?」

「五分くらいです」

「早く来すぎ」

「待たせるよりいいです」

相変わらずだった。

二人で予約していた店へ向かう。

並んで歩いているだけなのに、前日までとは何もかも違って感じられた。

店に入る前、恭平が足を止めた。

「一つ聞いていいですか」

「何?」

「付き合うってことでいいんですよね」

亜希子は思わず笑ってしまった。

「昨日の話で、そうならなかった?」

「ちゃんと確認したいです」

「本当に真っ直ぐだね」

「曖昧なのが嫌いなので」

「知ってる」

亜希子は恭平を見た。

「付き合いたい。恭平君と」

「分かりました」

「その返事、仕事みたい」

「うれしいです」

言い直した恭平の顔は、少し赤くなっていた。

店では、仕事以外の話をした。

子どもの頃のこと。

大学時代のこと。

休日の過ごし方。

好きな音楽。

苦手な食べ物。

これまで長い時間を一緒に過ごしてきたのに、知らないことがいくつもあった。

「亜希子さんは、友達が多いですよね」

「普通だと思うけど」

「連絡先、何人くらい入ってます?」

「数えたことない」

「休みの日も、誰かと会ってることが多いですか」

「そうかも」

「毎週?」

「毎週ではないよ」

恭平が少し考え込む。

「何?」

「付き合ってからも、俺より友達を優先することはありますよね」

「あると思う」

亜希子が正直に答えると、恭平の眉がわずかに動いた。

「嫌?」

「嫌です」

「そこは即答なんだ」

「でも、やめろとは言いません」

「うん」

「ただ、嫌だとは言います」

「分かった」

「亜希子さんも、俺に直してほしいことがあったら言ってください」

「もうあるよ」

「何ですか」

「結論を急ぎすぎるところ」

「たとえば?」

「この前も、私が答えられなかっただけで、全部決めつけたでしょ」

「答えてくれなかったからです」

「考える時間が必要な人もいるの」

「どのくらい待てばいいですか」

「そうやって、すぐ数字で決めようとするところ」

恭平は納得していない顔をした。

亜希子は笑った。

二人はきっと、これからも同じようなことでぶつかる。

亜希子は周囲とのつながりを大切にする。

恭平は、大切な相手に真っ直ぐ向き合おうとする。

どちらかが間違っているわけではない。

ただ、愛し方が違う。

その違いを、相手に分かってもらうためには、言葉にしなければならない。

「手、つないでもいいですか」

恭平が聞いた。

「そういうのも確認するんだ」

「嫌がられたくないので」

「嫌じゃないよ」

差し出された手を取る。

恭平の手は、思っていたよりも温かかった。

駅へ向かう途中、恭平がふと笑った。

「何?」

「先輩と手をつないでるの、変な感じです」

「今、先輩って言った」

「会社では先輩なので」

「今は会社じゃない」

「じゃあ、亜希子さん」

名前を呼ばれる。

亜希子は握った手に少し力を込めた。

誰かを選ぶことは、ほかの人を大切にしなくなることではない。

一人を特別に思うことも、これまで築いてきたつながりを捨てることではない。

ただ、その人にしか渡せない言葉を、きちんと渡すことなのだ。

亜希子はようやく、それを知った。

最終章.誰にでも優しい先輩と、俺だけの恋人

二人が付き合い始めてから、三か月が過ぎた。

職場では、これまでと変わらない距離感を保っている。

亜希子は恭平だけを露骨にひいきしない。

恭平も、公私を混同しないように気をつけている。

ただし、完全に隠し通せているかは分からなかった。

「最近、恭平君、少し丸くなりましたよね」

昼休み、美咲が言った。

「そう?」

「前は、会議で反対意見が出たら、すぐ言い返してたじゃないですか」

「今も言い返してると思うけど」

「前より、一回考えるようになりました」

美咲は意味ありげに亜希子を見る。

「亜希子さんの影響ですかね」

「どうして私?」

「いつも一緒に仕事してるから」

亜希子は曖昧に笑った。

向かいの席では、恭平が同僚と話している。

亜希子の視線に気づいたのか、一瞬だけこちらを見た。

目が合う。

恭平はすぐに視線を戻した。

それだけのことなのに、亜希子には彼の考えていることが分かった。

今日、何時に帰れそうですか。

夕方、恭平から社内チャットが届いた。

〈今日は定時で帰れそう〉

〈駅前に新しい店ができたみたいです〉

〈行ってみる?〉

〈行きます〉

簡潔な返事だった。

そのあと、もう一通届いた。

〈今度は、誰かに誘われても来てください〉

亜希子は画面を見ながら笑った。

〈困ってる人がいたら分からない〉

すぐに既読がつく。

〈俺も困ります〉

〈何に?〉

〈亜希子さんと食事に行けなくて困ります〉

本当に、真っ直ぐな人。

以前の亜希子なら、少し重いと感じていたかもしれない。

けれど今は、その真っ直ぐさに救われている。

恭平は、自分がどう思っているのかを言葉にする。

何がうれしくて、何が嫌なのか。

何を望んでいるのか。

その言葉を受け取るたび、亜希子も自分の気持ちを言えるようになった。

〈分かった。今日は恭平君との約束を優先する〉

送信すると、少し間を置いて返事が届いた。

〈ありがとうございます〉

続けて、もう一通。

〈あと、会社では名前で呼ばないでください〉

亜希子は思わず周囲を確認した。

向かいの席で、恭平が耳を赤くしている。

どうやら、メッセージを読んでいるところを誰かに見られるのが恥ずかしくなったらしい。

〈恭平君〉

わざと名前だけを送る。

向かいから、恭平が亜希子をにらんだ。

けれど、その口元は笑っていた。

亜希子も笑う。

彼女は今も、誰にでも優しい。

困っている人がいれば声をかける。

誰かが一人でいれば、その隣に座る。

人と人の間に立ち、つながりを守ろうとする。

それは亜希子の変えたくない部分だった。

ただ、一つだけ以前と違うことがある。

大切な人には、大切だと伝えるようになった。

恭平もまた、以前と変わらず真っ直ぐだった。

決めたら動く。

迷っている人がいれば背中を押す。

納得できないことには、正面から向き合う。

ただ、相手が自分と同じ速さで答えを出せるとは限らないことを、少しずつ学んでいた。

亜希子が人とのつながりを作り、恭平が二人の関係を前へ進める。

同じではないから、補い合える。

違うからこそ、自分にはなかった愛し方を知る。

定時を過ぎ、亜希子はパソコンを閉じた。

周囲に声をかけてから、先に会社を出る。

少し時間を空けて、恭平も会社を出てくることになっていた。

駅へ向かう途中、スマートフォンが震えた。

〈今、出ました〉

亜希子は足を止めずに返信する。

〈駅で待ってる〉

誰にでも優しい自分のままで、一人の人を特別に愛する。

それができると教えてくれた人が、もうすぐ後ろから追いついてくる。

亜希子は少しだけ歩く速度を落とした。

真っ直ぐに走ってくる彼が、追いつきやすいように。

石門星の女性×車騎星の男性の恋

石門星は、人とのつながりや仲間意識を大切にする星。

特定の一人だけでなく、周囲の人たちと良好な関係を築こうとする。そのため、恋愛でも友人や同僚との関係を大事にしやすい。

一方、車騎星は、自分の気持ちに正直で、行動が早い星。

好きな相手には真っ直ぐ向き合い、曖昧な関係を長く続けることを好まない。

この二つの星が出会うと、石門星が人間関係を整え、車騎星が関係を前へ進める組み合わせになる。

仕事や共同作業では、お互いの不足を補いやすい。

ただし恋愛では、石門星の「みんなを大切にする姿勢」が、車騎星には「自分は特別ではない」と映ることがある。

反対に、車騎星の真っ直ぐな愛情は、石門星にとって強すぎる要求に感じられることもある。

大切なのは、どちらかが自分の性質を捨てることではない。

石門星は、大切な相手にだけ渡す言葉を持つこと。

車騎星は、相手が答えを出すまでの時間を受け入れること。

その違いを理解できたとき、この二人は互いにないものを補いながら、一緒に前へ進んでいける。

星が違えば、愛し方も違う。

だからこそ、相手を知ることから恋は始まる。

石門星と車騎星をもっと知る

亜希子と恭平の性格は、算命学における十大主星の「石門星」と「車騎星」をもとに描いている。

物語の中では、二人はどこにでもいる会社員として登場した。

けれど、その行動や恋愛のすれ違いには、それぞれの星が持つ性質が表れている。

亜希子のもとになった「石門星」

人とのつながりを大切にし、周囲の空気を読みながら関係を築いていく石門星。

誰にでも自然に接することができる一方で、本当に大切な相手から「本音が分からない」と思われることもある。

石門凛とは? 人とのつながりを広げる、社交型の星導士

中心星が石門星のあなたへ|好かれる男は“距離感”で決まる

恭平のもとになった「車騎星」

考えて立ち止まるよりも、まず行動する車騎星。

困難な場面でも先頭に立てる強さを持つ一方で、結論を急ぎすぎたり、自分の真っ直ぐさを相手にも求めたりすることがある。

車騎烈とは? 行動力と決断力を持つ星導士

中心星が車騎星のあなたへ|行動力を“魅力”に変える身体づくり

あなたの中に宿る星を調べてみる

亜希子のように、人とのつながりを大切にする星を持っているのか。

恭平のように、迷わず行動する星を持っているのか。

あるいは、二人とはまったく違う愛し方をする星を持っているのか。

星導界診断では、生年月日からあなたの命式を読み解き、あなたの中に宿る「星導士」と、人生の流れを表す「命従」を導き出す。

自分の星を知ることは、自分がどのように人を愛し、どんな場面ですれ違いやすいのかを知る入口にもなる。

生年月日でわかる、あなたの星導界診断

※星導界診断は、算命学の考え方をもとに、ヒコレオンハック独自の「星導士」と「命従」を組み合わせた診断です。

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